裁判官は、一段高いところから、被告、弁護人、そして検事をも見下ろしている。法廷を直接見ても、テレビの裁判場面を見ても、裁判官は犯しがたいほどの厳しい威厳を保っているかに見える。
裁判官は、公平・公正・正義を守り、国民を守る人だと信じていた。ところがJR東労組7人の組合員が逮捕されて、60回におよぶ公判が行われた。「えん罪浦和電車区事件」である。
事こまかに事実審議が繰り返され、無罪になると思っていたところ、小池裁判長は執行猶予つきではあったが、全員有罪であった。
戦争を肯定するグリーンユニオンの指令で、戦争を否定するJR東労組の内部工作によって組合破壊に動いたY君に対して、改心するよう説得したが、Y君は自らの嘘の繰り返しに耐えられず、組合を脱退し会社も自主退社した事実が明らかになった。
にもかかわらず、小池裁判官は有罪判決を下した。自信のない聞き取り不能の判決文の朗読は裁判官の内なる心理・良心の動揺を表すものと受け取れた。
嘘に嘘を重ねた「正常労組破壊工作員」の言動はすべて信用できると検事は、一方的に断定した。一方、真摯に繰り返し真実を申し述べた浦和電車区の7人の証言は、すべて信用出来ないと検事は断言した。
裁判官は、不自然極まりない検事の論告求刑は、余りにも政治的偏りがあると見抜くと思った。ところが、検事の論告をすべて丸々取り入れた判決には、怒り心頭に発した。
これは国策裁判だ。「米国と共に毅然と戦う」と明言した小泉式戦争国策に反する者は、問答無用と逮捕した反戦封じのため断罪する。その証拠に2002年11月1日、7人逮捕の直後、海上自衛隊がインド洋に出撃した。アフガン空爆の米艦隊に対して給油支援のためだ。反対の声が大きく広がらなかったのに乗じて、戦闘能力抜群のイージス艦まで出撃させる暴挙に出たのである。
6月5日、東京高等裁判所において、「浦和電車区事件」の控訴審判決が行われた。一審有罪判決は、客観的に精査すれば、嘘を重ねながら組合破壊工作を行ったY君の非常識な行動は、常識ある裁判官には容易に理解できると信じていた。
また、組合破壊工作に対して、組合を守るためにY君に対して説得を行うのは、憲法で保障されている団結権の行使があることは、歴然たる事実であることが理解されると思っていた。
美世志会7人の全国キャラバンを受けて各地の受け入れ体制も万全を期し、市民も参加してえん罪撲滅の気運は高められていた。
こうした状況を総合的に分析判断して、裁判長は「一審判決を棄却、全員無罪」と無罪判決が下されると期待していた。被告とされた美世志会の7人は、起立し緊張した面持ちだった。傍聴席の我々も緊張し耳をそばだてた。
中山裁判長が読み上げる判決文のなかに、「一審の事実誤認」を認め「組合の団結権を認める」文言があったので、左耳聴力ゼロの私は、無罪判決がでるものと早とちりした。ところが、判決を聞き唖然とし、声も出ない驚愕が全身を圧して身動きができなかった。
「本件各控訴をいずれも棄却する」
裁判長も後ろめたいものを感じてか、極小声での判決である。「不服があれば15日以内で上告の手続きができる」と付け加えた。正義に反する判決を受け入れることはできない。即日、上告することは決定した。国策裁判の壁がいかに厚いものであるか、裁判官も正義を捨て戦争国策に魂を売るものかと、この日東京高裁102号法廷で実感した。
小泉政府がはなった反戦封じ、反戦狩りの国策捜査、国策裁判という矢は、小泉退陣宣言のあとも、公安、検察に引き継がれて、反戦封じは繰り返し行われている。
反戦封じはえん罪浦和電車区事件だけではない。立川反戦ビラ配布逮捕、葛飾赤旗配り逮捕、公衆トイレ反戦落書き逮捕、君が代不起立ビラ配り高校教師逮捕等々、戦争へ進もうとする国策を批判する個人、組織を不当逮捕し、国策裁判で問答無用と有罪判決を下す。この大きな流れのなかで、浦電控訴審判決があったのだ。
中山裁判長は「第一審は事実誤認と裁定」した。しかし1月21日、共謀は否定したが、2月4日に日にちをずらして、第一審判決の事実誤認は判決に影響はないと一審判決を擁護した。国策裁判であるから、はじめから「有罪ありき」の方針は二審においても踏襲されたのだ。
判決を聞くと「Yは制裁を受ける事由があり」とした。「Yの行為は問題があり、反省の姿勢を示さなかった」と理解した。「ただちに除名処分に相当するかづかはともかく、組合内において、一定の制裁を受ける理由があった」と認定したにもかかわらず「強要罪」を消すことはなかった。
労働組合の団結権について「団結を保持し組合としての一体化を図るために、統制権を行使する場合がある」としながら、一審判決の「強要罪」をそのまま有効とした。この矛盾を平然と行ったのが、「控訴を棄却する」国策判決なのだ。
反戦封じの国策裁判の壁は厚い。市民の声を結集して、戦争へむかう国策の間違いを阻止するのが、緊急の課題である。
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